第8章 初陣

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 跡継ぎの長男が戦死して五日が経った。間者の情報待ちの灰原家は領内全域に喪に服しているということを表明して、国としてはとりあえず動かずに隣国の様子を窺っていた。  事態に進展がないため、当然昇太郎と琴乃の話も進展はない。昇太郎は日々相変わらず鍛練と農民の手伝いを仕事として日々を過ごしていた。  そして城の中で主君の灰原昌隆が見守る中で剣の鍛錬を行っていた時、間者からの知らせを受けた灰原家の者が城に駆けこんできた。そして主君を見つけるや否や、片膝をついて一礼し、緊急の用件を告げた。 「黒川家、出陣の模様! 進路は従来の白山家への道ではなく、この城への道を選ぶことが濃厚と思われます! 投入できる兵士のほぼ全てを投入する構えです!」  鍛錬をしていた全員が言葉を失って静まりかえる。今までにこやかに鍛錬を見物していた灰原昌隆も一瞬にして険しい表情へと変わる。 「使いを出せ! 白山家に救援を要請しろ!」  主君の指示で部下が数人その場を走って離れる。そして続けざまに指示が飛ぶ。 「総員籠城戦の準備だ! 何一つ抜かるでないぞ!」  籠城戦の指示が出たことで城全体を緊迫感が包み込む。今までは白山家と黒川家のいさかいがある度にどちらかの味方をしてきた灰原家。しかし今度ばかりは灰原家が争いの中心を担うことになった。 「先の戦よりまだ数日だというのに、なぜ黒川家は兵を挙げる?」  白山家と黒川家が争ったのは数日前。そこで灰原家は手痛い犠牲を払った。その戦からたった数日で再び兵を動かす黒川家の考えがわからない。 「昇太郎!」 「は、はい」  籠城戦の準備と言われても何をすればいいのかわからない。立ち往生している昇太郎に主君からお呼びがかかった。
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