第8章 初陣

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「お前はわかるか? 今回の黒川家の動向、どう思う?」  先の戦争も大きな争いには発展しなかった。小競り合いと先鋒同士が少々やり合っただけという小さな戦だ。しかしその戦で灰原家は跡取りを失った。灰原家としては厳しい戦いとなった小競り合いだが、黒川家には特筆すべき点の無い争いだったことは今回の動きで明白だ。 「えっと・・・」  昇太郎は頭の中にある記憶や知識を全てひっくり返してでも何か解答を探し出そうとしている。今まで授業で習ったことや話で聞いたことを中心に思い出せるものをとにかく片っ端から思い出していく。 「ああ、そうだ」  そして一つの話を思い出した。 「あの、二つの勢力が争いをしている時に、内応者がいたんです。でもどちらが勝つか動向が読めない拮抗した戦いだったので、内応者は裏切るか裏切らないか悩んでいました。そこで内応を持ちかけた方の勢力がしびれを切らして内応者の軍に攻撃を仕掛けたら、内応者は慌てて裏切ったそうです」  昇太郎の話は戦国時代の関ヶ原の戦い。豊臣方の石田三成と徳川家康がぶつかった戦国時代の中でも最大規模の戦争だ。豊臣方の小早川秀秋は徳川方と内応しており、戦いの最中で裏切る手はずになっていた。しかし徳川方は援軍でやってくるはずの本体が真田家によって足止めされ、戦いは拮抗していたことから小早川秀秋は裏切るかどうか悩んで動かなかった。拮抗した状態を何とかしたい徳川方は一向に裏切ろうとしない小早川秀秋の陣に大筒(大砲)を撃ち込んだ。これで決意が決まった小早川秀秋は豊臣方を裏切って徳川方につくことになり、関ヶ原の戦いは徳川方の勝利に終わるのだった。  白山家と黒川家と灰原家を取り巻く環境は多少異なる。しかし二大勢力を白山家と黒川家とし、内応者どちらにもつかない灰原家と考えれば昇太郎の言った言葉にも説得力が出る。 「・・・つまり此度の黒川家の動向は我らが従わなければ敵とみなして攻撃する、と言いたいわけか。どうやら暗躍の詳細な情報を得る前に白山家につかざるを得ないようだな」  独立がどうとか家名存続をどうとか言う前に、今を生きるために白山家を頼らなければならなくなった。
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