第8章 初陣

4/18
115人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
「あ、あの、僕は・・・」 「ん? ああ、昇太郎。お前はまだ戦に出るのは無理だろう。しかし籠城ともなれば城壁に飛びついてくる敵を追い払うために人手がいる。黒川家の大軍を相手取っての籠城戦が初陣というのは辛かろうが、力になってもらえるとありがたい」  初陣の場合、手柄を立てやすい少数相手の野戦のように勝てる可能性が高い戦いであることが多い。経験を積むといった意味に加え、初陣を勝利で飾ることができれば幸先が良いからだ。  しかし今回は何倍もの兵力を持つ黒川家を相手に籠城戦となる。城を攻める側は守る側の三倍の兵力が必要と言うが、黒川家ならば灰原家の全兵士数の三倍を軽く超える数を投入できる。そして今回はその三倍以上の兵士数が投入されている可能性が高い。 「だが籠城戦も白山家の援軍の到着を待つ間だけだ。援軍の到着と同時に状況にもよるが打って出ることもある。その時は城の守りを任せる」  昇太郎に城の守りを任せると言う。その意味は、打って出る際には戦える者は総勢連れて出るということ。つまり城に残る昇太郎がもしかすると唯一の男手になる可能性もあるのだ。よって灰原昌隆は昇太郎に任せるという言葉をかけた。 「最悪の場合、琴乃を連れて落ち延びよ」  灰原昌隆はそう言うとその場から立ち去って行く。今言った最悪の場合とは本当に最後の最後、主君の首が討たれて城が陥落する時のことを指す。昇太郎はその時、琴乃を連れて逃げることが命令として下った。  敗軍の将は打ち首にされることも多く、その妻子も必ずしも受け入れられてそれなりの待遇があるとは限らない。弱小国の姫として生まれた琴乃は生まれた時から厳しいお国事情を憂いながら生きてきた。そんな愛娘にこれ以上国家レベルでの苦しみを感じさせたくないという親心もこの命令には含まれているのだろう。 「はい」  昇太郎も心の中で琴乃だけは守りたいという思いが大火のように燃え上っていた。そのため彼らしくない、引き締まった表情での返事となった。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!