第8章 初陣

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「・・・おそらく黒川家は無血開城を望んでいるだろう。そうでなければこの城にあれだけの兵を動員するはずがない。先の戦で白山家に味方したこともあり、今更和議などという虫のいい話もできぬ」  灰原昌隆は黒川家が戦わずして勝つことを予定していると読む。灰原家の五倍にも上る兵力を動員したのはあくまでも見せるため。相手の戦意を削ぐために五倍の兵力を投入して、無血開城を迫るという手法だと読んだ。  しかしそれがわかったところでどうしようもない。圧倒的兵力差は覆らない。白山家の援軍も期待できない。状況に変化はないのだ。 「いっそのこと打って出るか?」 「バカを言うな。五倍の兵力を前にどうやって戦う気だ?」 「総員討死が関の山だ」  五倍の数を相手取って攻撃を仕掛けるのはまさに愚の骨頂。唯一の防波堤である城壁や城門を放棄する理由など無い。 「あ、あの・・・」  軍議が行き詰る中、昇太郎が恐る恐る手を挙げた。 「どうした? 何か妙案でもあるのか?」 「あ、いや、妙案かどうかわからないんですけど・・・」  昇太郎はもう何度もここで発言させられている。そしてその度に視線が集まる。今回は珍しく自分から手を挙げたが、それでも集まってくる視線がプレッシャーを感じさせてくるため、どうしてもオドオドとした話し方になってしまう。 「十倍の兵力を相手に勝った話を聞いたことがあります」 「な、なに? 本当か?」  灰原昌隆を始め家臣団が昇太郎の話に活路を見いだせるのではないかと期待を寄せる。 「はい。十倍を超える敵は圧倒的多数のため油断していたので、夜と雨に紛れて軍を動かして敵総大将を狙える位置まで行って、夜明けとともに総大将だけを狙って突撃をかけて勝ったって話です」  戦国時代の桶狭間の戦いだ。十倍以上の兵力を動員した今川義元を織田信長は奇襲作戦によって討ち果たして天下に名をとどろかせた。その時の内容として語り継がれている説を昇太郎はこの場で披露した。
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