第8章 初陣

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「なるほど、奇襲か。しかし雨も降ってはおらぬゆえ、夜に紛れてどこまで接近できるかが問題だな」  昇太郎の話を聞いて家臣団が奇襲について皆が意見交換を始める。 「だが奇襲は良いと思うぞ。一度打撃を与えた後は亀のように城に引っ込んでおくのだ。そうすれば黒川家はいずれ兵糧が切れる。もしくは白山家の状況が変わるなどすれば援軍が到着するまでの時間稼ぎにもなる」 「そうだな。では早速今夜仕掛けよう。到着したばかり、ましてや五倍の兵力があるので油断もしていよう。陣を敷く労力で兵も疲れるはずだ。狙い目は今夜しかない」  先ほどまで意気消沈だった家臣団の士気が上昇する。追い詰められている時はどうしても元気が出ないが、活路を見いだせた時にはその反動が来たかのように勢いが増す。おかげで降伏するという話はどこかへ行ってしまっていた。 「では皆の者、今宵闇に乗じて黒川の軍に奇襲を仕掛ける。良いな?」  家臣団が揃って頭を下げる。誰一人として異論を口にしない。それは満場一致で決まったということを意味している。 「では総員準備に取り掛かれ」  主君の声に従い家臣団が次々に立ち上がっては部屋から出て行く。一定の活路が見いだせたことで皆の目に力がこもっているのがわかる。 「昇太郎。そなたは残れ」 「あ、はい」  家臣団が総員部屋を出て行った後、残った昇太郎は前と同じように灰原昌隆の真正面に移動して座りなおす。 「先ほどのそなたの話で皆がやる気になった。ワシも例外ではない。礼を言う」 「い、いえ、そんな・・・」  主君が家臣、それも末端の数日前に末席に加わった少年に頭を下げている。戦国時代の常識を昇太郎は知らないが、これはもの凄く名誉なことなのではないかと思う。
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