第1章

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 琥王は、ナイフを抜くと、ハンカチで傷を塞いだ。 「かなり深いから、三十八分二十六秒ほど安静にさせて。血を止める」  リュックからタオルを出すと、背に当て、木によりかかる。 「福来さんの居場所には、【愛の翼の会】のマークがあった」  【愛の翼の会】世界は一つという理念のもと、結婚という概念を覆し、男女と子孫で構成されている。女性が産んだ子供は、皆で育ててゆく。 「福来さんは、大黒さんを失いたくなかった。でも、学校が離れて、住む世界も徐々に異なってきていた。【福来大黒】という店で、互いに繋ぎ止めようとしたけど、限界があった」  大黒が、どこかに消えたと思っていたら、タオルを濡らして持ってきていた。他に着替えも用意していた。 「俺達、恋愛とか、そういう関係ではないよ」  それは分かっている。大黒と、福来は神憑きと、神使いなのだ。互いに一緒に居ることで、良くも悪くも相乗効果があった。互いに必要としてしまう相手であるのだ。 「大黒さんが全て出資して、【福来大黒】をしていたでしょう?共同経営ではなかった」 「それは……高校生だったからな。親の元で始めた」  福来は、金を必要としていた。金の重要性をよく知っていた。  福来と【愛の翼の会】の接点がないが、金に関係しているように思える。 「血が止まったら、屋台を動かす。琥王、この周辺の寺を回って、ありったけの厄を落としてきて、売るのは開運グッズだからね」 「小銭、あるかな……」  俺は、自分の財布から全ての小銭を出した。 大黒もつられて、小銭を全部出していた。 「まあ、帰りの切符代があればいいか……」  大黒が俺の面倒をみてくれるというので、琥王は寺巡りに走って行った。 「神憑き同士で、神の相性も悪いのに、仲はいいのね、君たち」 「……厄病神に本当の厄と、人間の心を教えられています」  本当は、俺が琥王を必要なのだろう。 「そうか。いい友だよね……」  しゃがんで空を見る大黒も、友で、片足が動かなくなっても、恨まないという心を得たではないのか。 「それと、屋台で、開運グッズを売るの?」 「はい。どうも、そこに鍵がありそうなので」  大黒は、本当は既に屋台の準備をしていた。俺に、グッズを売らせようとしていたらしい。俺は過去も未来も見えないが、遠視はできるので、客の素性を知りたかったらしい。  それに、魂に書かれている名前も読める。
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