第1章

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 男の話を聞き、福来がここの品物を安価で売っていたことが判明した。福来は、自分で仕入そして販売していたようだった。何故ならば、持ち逃げから帳簿は確認されたが、不正はなかった。大量販売や、安価の販売のような、あやしい取引も帳簿にはなかったのだ。  そして、この男は【愛の翼の会】の会員であった。会に頼まれて、グッズを購入していたのだ。 「この屋台、ほとんど営業していないのに、よく分かりましたね」 「会員からの連絡があってね、それで、強い効果のもの見せて欲しい」  俺は、中で寛いでいた大黒を呼んでみた。 「大黒さん、効果の強い開運グッズはありますか?」  大黒は頷くと、倉庫から何か箱を持ってきた。箱を開くと、中には亀の置物が入っていた。亀の下には、神社の鈴のような巨大な鈴が入っていた。 「亀は長寿で、鈴は祓いです。どちらも、かなり強力です。病気の友人のために作成しましたが、渡す前に亡くなりましてね」  他に、大黒は水晶を持ってきた。 「水晶は、相性があるので触れて痛いと思ったら、すぐに放してください。怪我をしますから」  人の波長に少しだけ影響が出るように調整したつもりであったが、失敗した品物であった。力が非常に強い。 「金儲けには、これですかね」  金色の招き猫を大黒は持ってきた。  これ本当に、開運グッズなのであろうか。胡散臭い品物ばかりであった。 「全部購入したいから、金額を教えて欲しい」  大黒は、明細書を作成し、値引きなども行っていた。 「カード払いで頼む」  屋台でカード決済はできないので、店内で会計処理を行った。 「名前、メモしました。魂の名前です」  クレジットカードと照合してみると、合っていた。 「おまけで、クッキーを付けますよ。疲れた時に食べてみてください」  男にクッキーを渡すと、やや俯いてから、見たと言った。 「何を見ましたか?」 「ここの店員の母親は、信者であったよ。それで、母親が屋台の金を持ち逃げした」  息子の稼いだ金だから、いいのだと言っていたそうだ。福来は、母親を追って【愛の翼の会】の中に居るのかもしれない。  話しを聞いてしまった大黒の家族が、ああと納得していた。 「福来……」  金を渡しても、全て寄付してしまい、生活できない福来の母親はノイローゼであった。  福来は、本当の信者ではない。きっと恨んで呪って生きている。 「福来さんに会わないと……」
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