第1章

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 俺達が神憑きでなかったら、このように話しを信じてくれなかったかもしれない。神憑きという肩書も、たまには役に立つ。  しかし、神憑きと崇めてくれたのは、大黒の兄だけであった。 「二人共、風呂、入ってね」  名前を言っていなかった。ご挨拶がてらクッキーとパンを持って行くと、下も宴会のような状態であった。 「あの、薬師神です。これ、俺が焼いたパンとクッキーです。あと、ケーキ……」  言っている傍から、品物を奪われてゆく。 「かわいい!自分で焼くの!」  大黒の兄の嫁であった。クッキーを食べて、何か叫んでいた。 「やん、おいしい!!!!上手!プロなの?!!」  大黒の兄が静かな分、嫁が賑やかに感じる。 「家がパン屋なのです……」  クッキーが、空を舞うように移動してゆく。働いている店員も、一緒に食事をしているのだそうだ。 「おいしい!今日、売っていた品物だよね。パン屋ってことは、仕入も可能ね」  琥王は、普通に土地の土産を持っていた。 「檮山 琥王です」 「よ!二枚目!かっこいい!」  本当に宴会であった。 「お風呂に入ってから、おいで。そっちの部屋に夕食を用意しておくからね。さっき、聞こえたけど、塩冶様からの預かり人ですってね。それは大変だわ」  大黒の兄が静かに首を振っていた。 「聞こえたではないでしょう……」  聞こえたではなく、大黒の兄は、嫁と母に俺達は何者なのかと詰め寄られたらしい。 「御馳走ではないけど、おもてなししないとね!でも、その前に風呂に入っておいで」 「はい」  迫力に飲まれてしまった。家の端にある風呂場に行くと、基本的な部分で戸惑ってしまった。 「琥王、先に入って。俺、待っているからさ」  俺は、銭湯はあるが、自宅のような風呂で誰かと入ったという事が無かった。 「中、広いよ。一緒でいいよ」  一緒、風呂とは裸だろう。それに、裸で二人きりということにならないか?別件でも、裸は既に見られているが、改めて考えると恥ずかしい。 「うじうじ、しない!」  琥王に服を奪われてから、風呂に押し出された。 「琥王!」  琥王は、押した俺の背を見て静かになった。 「怪我、やっと塞がったな。血、まだ残っているよ」  タオルで拭いただけでは、まだ血が残っていたのか。 「骨がまだ繋がっていないよ……」
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