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「……俺、周囲に迷惑しかかけられませんから、このまま眠らせてください」
襟首を掴まれていた。
「芽実さんも、安廣さんも、薬師神の幸せを願っているだろう。塩冶さんは薬師神を神だと大切にしている。俺も薬師神が必要で、失いたくない……どうして!いつも、死の横にいる?どうして生きようとしてくれない?」
バンバンと背中が木に当たる。ナイフが刺さったままなので、すごく痛い。でも、琥王の心の痛みが、伝わってくる。
「分かった、神の死を、相手に伝える」
琥王の問いとかなり違う回答であるが、俺が生きようとしない理由もきっとある。
俺は、吠えるという能力がある。これは、伝える相手にのみ聞こえる声であった。俺を殺す全ての人に、吠えてみた。
神の死、その絶望。人類が転変地異や異常気象、ウィルスなどで次々と死んでゆく。そこで、立ち上がり未来を作るのが人間の力であり、そういう人間の傍で見守るのが神の仕事とするが、世の中に神はいない。ほんの僅かな喜びを与えるものが、神だとすると、その僅かすら途絶えた社会。それは、獣の世界であった。
「人が欲しいのは、獣の社会であるのか?俺は問う」
様々な返事が聞こえたが、回答は自分で見つけて欲しい。
「あの、ナイフ抜いてください」
これ以上経過すると、意識が保てない。
「痛いの?」
「すごく痛い。それに、死ぬのが怖い。俺は眠るだけでいいけど。芽実さんや、安廣さんが悲しむのが、怖い」
俺は恨まれるのが、怖い。俺は、死んだだけの両親を、心の片隅で恨んでいた。芽実に恨まれるのが怖かった。
「俺は?」
「琥王、本当に俺が必要?」
琥王は、真顔になっていた。
「必要」
「なら、琥王が、俺を不必要と言うまでの限定で、友達……」
琥王が、俺の背のナイフの柄に手をかけた。
「薬師神は俺が必要か?」
今、ナイフを抜いて欲しいという意味では必要であった。
「わからない。でも、俺に笑い掛けてくれた人は、幼稚園以来で、又、失うのが怖かった……又、永遠の孤独の中に落とされるのならば、最初から無かったほうがいい」
思わず、本音を言ってしまった。
「得てしまったら?」
「失いたくない、絶対に俺より先に死なないで……」
死なないで欲しい、ああそうか、これが琥王の気持ちなのか。俺はやっと理解した。
「琥王、ナイフ抜いて。やっと分かった。福来さんの気持ちと居場所」
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