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琥王は、ナイフを抜くと、ハンカチで傷を塞いだ。
「かなり深いから、三十八分二十六秒ほど安静にさせて。血を止める」
リュックからタオルを出すと、背に当て、木によりかかる。
「福来さんの居場所には、【愛の翼の会】のマークがあった」
【愛の翼の会】世界は一つという理念のもと、結婚という概念を覆し、男女と子孫で構成されている。女性が産んだ子供は、皆で育ててゆく。
「福来さんは、大黒さんを失いたくなかった。でも、学校が離れて、住む世界も徐々に異なってきていた。【福来大黒】という店で、互いに繋ぎ止めようとしたけど、限界があった」
大黒が、どこかに消えたと思っていたら、タオルを濡らして持ってきていた。他に着替えも用意していた。
「俺達、恋愛とか、そういう関係ではないよ」
それは分かっている。大黒と、福来は神憑きと、神使いなのだ。互いに一緒に居ることで、良くも悪くも相乗効果があった。互いに必要としてしまう相手であるのだ。
「大黒さんが全て出資して、【福来大黒】をしていたでしょう?共同経営ではなかった」
「それは……高校生だったからな。親の元で始めた」
福来は、金を必要としていた。金の重要性をよく知っていた。
福来と【愛の翼の会】の接点がないが、金に関係しているように思える。
「血が止まったら、屋台を動かす。琥王、この周辺の寺を回って、ありったけの厄を落としてきて、売るのは開運グッズだからね」
「小銭、あるかな……」
俺は、自分の財布から全ての小銭を出した。
大黒もつられて、小銭を全部出していた。
「まあ、帰りの切符代があればいいか……」
大黒が俺の面倒をみてくれるというので、琥王は寺巡りに走って行った。
「神憑き同士で、神の相性も悪いのに、仲はいいのね、君たち」
「……厄病神に本当の厄と、人間の心を教えられています」
本当は、俺が琥王を必要なのだろう。
「そうか。いい友だよね……」
しゃがんで空を見る大黒も、友で、片足が動かなくなっても、恨まないという心を得たではないのか。
「それと、屋台で、開運グッズを売るの?」
「はい。どうも、そこに鍵がありそうなので」
大黒は、本当は既に屋台の準備をしていた。俺に、グッズを売らせようとしていたらしい。俺は過去も未来も見えないが、遠視はできるので、客の素性を知りたかったらしい。
それに、魂に書かれている名前も読める。
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