第三章 失踪

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 そこでやっと、屋台の名前の意味が分かった。 大黒は、福来の名前を付けて、 福来に居てもいいよと告げていたのだ。 言葉にして言ったのかは分からないが、看板はそう告げていた。  大黒のこの行動から、福来は居場所がなかったのではないのか。  想像は想像の枠を越さない。 現場に行って、再度、遠視してみよう。  俺は、天然酵母の発酵を確認すると、小麦に混ぜながら手でこねてみた。 この生きている生地の感じが、俺はとても好きであった。 でも、この製法では、何個も作ることができない。 「あら、一弘君、珍しいパンね」  芽実が面白そうに、パンの様子を確認していた。 この天然酵母、俺が育てているのだ。
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