第1章

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 忽那が塩冶様の関係者?その噂は聞いた事がなかった。そもそも、塩冶様という存在が、どのようなものなのか、俺は理解していなかった。 「そうなの?」  琥王も知らなかったらしい。しかし、住吉も天満も、それ以上は知らないようであった。 「森のくまって、クッキーもあったのか。並ぶのが大変って、俺の姉ちゃんもパンを買ってくるけどさ。クッキーは初めて」  クッキーは販売していない。  昼休みが終わり、午後の授業になったが、先生が少ないので早めに帰宅となった。 「薬師神、映画を見ようか」 「そうだね」  新しく出来た映画館のチケットがある。途中下車して映画館に行くと、合う時間のものは、アクション映画だけであった。 「まあ、いいよね」  極寒の地から帰還するようなもので、見ていると寒くなる。  凍った森の中を走り、雪の中を走る。雪崩が起き、仲間が沈む。仲間を、掘り起こせずに大絶叫で泣いていた。  森を走る、何かを思い出す。森の先が、森とは限らない。夜の森には、寒さの他にも危険が多く存在していた。 「……ごめん」  この映画は、森の遭難を思い出す。 「……薬師神のせいではないよ。でも、ふっきらないといけないよね、俺も」  あの時、どうしていたら最良であったのか。いつも考えてしまっていた。 「今度は俺もいるし。飛ぼうよ」 「そうだね」  琥王が俺の手を握っていた。観客は少ないが、ここは映画館だぞ。男同士で、手を握るなどないであろう。  でも、誰もそんな事は気にしていない。琥王の手の温かさが、映画に心地よかった。  映画が終わると、サンドイッチ専門店に寄ってみた。オーダーごとに造るタイプで、結構おいしい。 「こういうのも、いいよね」  琥王と一緒にいるとかではなく、オーダーごとに作成するというのが、いいということであった。 「パンに生野菜は健康にはいいと思うけど、俺は別々がいいな。パンに水分は、やはり、よくない」  琥王は、パンは焼き立て、野菜はサラダで、それにスープの組み合わせが最適という。  琥王はパンになると、真剣になっていた。 「琥王……では、焼きたてパンを食べにいくか」  森のくまならば、いつも、何かしらが焼きたてであった。焼いてから時間を経過させないように、少量で焼いているせいもある。 「そうするか」  しかし、一旦家に帰り、着替えなければならない。俺は、明日の準備で行くので、まだ間がある。
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