第1章

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神憑き2 『蚊帳の外』 第一章 過去からの手紙  周囲はまだ寝静まり、新聞さえも配達されていない。早朝のえんきり屋、バイトに向かう俺と、パン屋で修行しているえんきり屋の店員の桐生は、待ち合わせて、森のくまというパン屋に向かう。  日も登っていないのに、朝と言うのかは疑問であるが、微かに空の端は明るい。  俺は、薬師神 一弘(やくしじん かずひろ)高校二年生。神憑きであった。それも、訳あって六人の神が憑いている。七人の神が揃うと世紀末がやってくるとされ、俺は神を揃えたくない連中に、殺されかかることが多い。  車の運転をする桐生は、えんきり屋の店主 塩冶 秀重(えんや ひでしげ)がぬいぐるみから造ってしまった生命体で、今は塩冶の親友でもあった。塩冶はかつて【返還の血】と呼ばれる、無機から生命を造る能力を有していた。今は、塩冶の力は、世界に戻している。  ぬいぐるみであった筈であるのに、桐生には可愛げもなく、どこかサラリーマンにも見えた。しかし、器用で、パンも一人で焼けるようになりそうであった。 「桐生さん、パンを焼けるようになったら、えんきり屋で焼くのですか?」  桐生は、ちらりと俺の方を向いたが、運転に集中していた。 「森のくまの竈は、相当なものだよ。あれでないと、パンの味が落ちる」  森のくま、用途に分けて焼く方法が異なる。もちろん、普通の電気のオーブンもある。 「……どんなパンを焼くつもりですか」  電気で充分いける。石釜もあるが、そっちが特殊であった。 「薬師神君こそ、えんきり屋でクッキーを焼いてください。オーブンは用意します」  クッキーを焼くと、食べてしまう人間が多いのだ。えんきり屋、甘党が多すぎる。  ちなみに、えんきり屋は、縁切りではなく、塩冶と桐生の頭文字を取って、えんきり屋であった。喫茶店で、森のくまのパンも売っている。  桐生は、えんきり屋で、パンを売りきってしまうと、客が減ってしまうので、クッキーを用意しようとしているのだ。俺は、季節によってはケーキも焼くが、それはまだ、えんきり屋には知られていない。 「どうして、俺が焼くのですか?」 「薬師神のクッキーというのは、特殊ではないですか。それに、あれでは森のくまでは売れないでしょう」  薬師神、俺に憑いている神は、治療、医療関係であった。医療の神というのではないが、癒しなども昔の医療であるのかもしれない。
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