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俺がクッキーを焼くと、胃薬になる。味はクッキーなのだが、効能が出てくる。他に、精神安定剤のようにもなる。
「えんきり屋では、クッキーを売れますよ。胃薬としてね」
「胃薬として売るつもりはありません!」
クッキーは、クッキーとして売りたい。それで癒しになったとしても、俺だけが焼ける味では、商売にはならないだろう。俺もいつもまでも、えんきり屋に居る訳ではない。
「役立たずですね……」
元ぬいぐるみで、座っていただけの奴に言われたくない。
「人探し、しています」
「まあ、遠視の範囲ですよね。後は塩冶様がフォローしている」
「!!」
桐生は、痛いところを突いてくる。多分、桐生は自分が居なくなった時のことを、心配しているのだろう。それは、分かっているが、言い方もある。
口論しながら森のくまに到着すると、店主の善家 芽実(ぜんけ めぐみ)が心配そうに見ていた。俺は、薬師神という亡くなった親の名字を使用しているが、叔父の善家 安廣(ぜんけ やすひろ)の養子でもある。
芽実は、血は繋がっていないが、母親でもあった。
「おはようございます。芽実さん」
最近、芽実は安廣と結婚したのだ。俺も、最近、養子となった。赤ん坊から育ててもらったが、今更、母親とは呼びにくい。
「喧嘩しないようにね」
桐生とは十歳程、年が離れている。喧嘩というものではない。
早朝の森のくま、ここでパンを焼くのが、俺の日課であった。六時半には客が並び始め、七時頃には朝のピークが始まる。六時過ぎには、店頭にパンがなければいけない。
走りながら荷物を運び、パンを焼いている最中に次のパンの生地を準備する。慌ただしい朝であった。
ここで、ぎりぎりまで働き、時間になると芽実がパンを持ってやってくる。
「一弘君、学校!」
「はい!行ってきます!」
今日も、大量のパンを持たされてしまった。
パンを抱えて駅まで走り、そのまま改札を抜けると電車に乗り込む。電車では、席を見つけて爆睡する。
二駅過ぎると、同じマンションの住人である、檮山 琥王(ゆすやま こおう)が乗り込んでくる。
この琥王、厄病神の神憑きであった。厄病神は、憑き主だけは必死で守り、厄病神が憑いていても人が離れないように。魅力的?な人間を造るという。
琥王も、性格はお節介なうえに、結構、嫉妬深いが、見た目は爽やかで、二枚目であった。
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