第1章

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 俺がクッキーを焼くと、胃薬になる。味はクッキーなのだが、効能が出てくる。他に、精神安定剤のようにもなる。 「えんきり屋では、クッキーを売れますよ。胃薬としてね」 「胃薬として売るつもりはありません!」  クッキーは、クッキーとして売りたい。それで癒しになったとしても、俺だけが焼ける味では、商売にはならないだろう。俺もいつもまでも、えんきり屋に居る訳ではない。 「役立たずですね……」  元ぬいぐるみで、座っていただけの奴に言われたくない。 「人探し、しています」 「まあ、遠視の範囲ですよね。後は塩冶様がフォローしている」 「!!」  桐生は、痛いところを突いてくる。多分、桐生は自分が居なくなった時のことを、心配しているのだろう。それは、分かっているが、言い方もある。   口論しながら森のくまに到着すると、店主の善家 芽実(ぜんけ めぐみ)が心配そうに見ていた。俺は、薬師神という亡くなった親の名字を使用しているが、叔父の善家 安廣(ぜんけ やすひろ)の養子でもある。  芽実は、血は繋がっていないが、母親でもあった。 「おはようございます。芽実さん」  最近、芽実は安廣と結婚したのだ。俺も、最近、養子となった。赤ん坊から育ててもらったが、今更、母親とは呼びにくい。 「喧嘩しないようにね」  桐生とは十歳程、年が離れている。喧嘩というものではない。  早朝の森のくま、ここでパンを焼くのが、俺の日課であった。六時半には客が並び始め、七時頃には朝のピークが始まる。六時過ぎには、店頭にパンがなければいけない。  走りながら荷物を運び、パンを焼いている最中に次のパンの生地を準備する。慌ただしい朝であった。  ここで、ぎりぎりまで働き、時間になると芽実がパンを持ってやってくる。 「一弘君、学校!」 「はい!行ってきます!」  今日も、大量のパンを持たされてしまった。  パンを抱えて駅まで走り、そのまま改札を抜けると電車に乗り込む。電車では、席を見つけて爆睡する。  二駅過ぎると、同じマンションの住人である、檮山 琥王(ゆすやま こおう)が乗り込んでくる。  この琥王、厄病神の神憑きであった。厄病神は、憑き主だけは必死で守り、厄病神が憑いていても人が離れないように。魅力的?な人間を造るという。  琥王も、性格はお節介なうえに、結構、嫉妬深いが、見た目は爽やかで、二枚目であった。
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