第1章

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 空いた時間で、クッキーを焼くか。最近、クッキーの出番が多くなっていた。常に予備がなくなってしまう。 「帰るか……」  しかし、帰ってみると、塩冶の家庭教師のスケジュールが待っていた。塩冶、かなり本格的で、きっちり問題集まで作成していた。  分かり易いが、スパルタでもあった。 「薬師神君、どうしてここを間違えるのかな。理解がなっていない」  まず、勉強の仕方というものがあり、それを覚えなければならないらしい。問題には、理解の仕方というものがあった。  それぞれに、決まったルールがあると分かっていれば、そのルール内で行えばいい。 「琥王は意外にも、勉強はできる」  琥王と比べられるのも、結構、きつい。琥王は、学年何位の世界の住人であった。 「厄病神ですからね」  厄病神は、人を育てる。琥王は、実力を養ってここまで来たのだ。ラッキーと縁遠い分、努力で補ってきた。 「……薬師神、森のくまの仕事を減らさないと、琥王には追いつけないね。バイトは朝だけにしてみたらどうかな?」  それは、芽実にも言われていた。やはり、両立は難しいのか。 「芽実さんと相談してみます」  夜は荷物の整理や、店内の清掃などもあって、結構、肉体労働であった。その肉体労働を、俺がやらないというのも心苦しい。  しかし、森のくまにバイトに行き、芽実に相談しようとすると、既に塩冶から連絡と相談があったと告げられた。 「一弘君は、自分の夢を追いかければいいの。この店は私の夢なのだから」  夜のバイトは来なくていいと、芽実に告げられていた。  真野から、新しい絵が届いた。樹神シリーズは、今後も続くのだそうだ。  絵は二枚で良かったと連絡すると、真野から奉納だと言われてしまった。神憑き、奉納という言葉にも弱かった。しかし、巨大な絵をどこに飾ればいいのだろうか。  それは、塩冶の母親が、俺が一人前になるまで飾って保管しておくから大丈夫だからと、連絡があった。  一人前?になったら、大量の絵を引き取れということらしい。しかし、真野の絵は賞を取り始め、やがて有名になってしまった。 『蚊帳の外』了 『樹神の森(こだまのもり)』 第一章 忘れられた島  芽実の祖父母に会いにいくため、金曜日の夕方、琥王と家を出た。学校は修学旅行中のため、終わりが早い。三時に家に戻っていたので、三時半に安廣が迎えに来てくれた。
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