第1章

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 居場所を特定するだけで、俺には事情は分からない。住所を特定すると、塩冶の一族が処理してくれていた。  国内便は、登ったと思った瞬間、下がり始める気もする。結局、人探しは二軒しか処理できなかった。  冷めたコーヒーを飲み干すと、横で眠っている琥王を見つめた。これは、いつもの電車と逆の光景であった。いつもの電車では、俺が爆睡し、琥王が起きている。 「降りる時は、どうも嫌だよな」  揺れるのが嫌であった。しかも、地面に着地するときの、重力が嫌いでもあった。 「琥王、空港に着いた!」  琥王の鼻をつまんで起こすと、飛行機を降りた。今日は、島に移動せずに、ホテルに宿泊する。  レンタカーに荷物を載せ、高速に乗ると、海の近くのリゾートホテルに到着した。 「あの、芽実さん。安廣さんと、二人でゆっくりディナーで楽しんでください。俺は、琥王と室内プールで泳いでから、ディナーバイキングで食べます」  芽実と安廣は同棲十六年だが、新婚であった。二人きりにさせたい。 「琥王、部屋に行くぞ」  琥王は、既に部屋のカードを持っていた。 「おう!」  部屋はツインで、結構広くはあった。 「せっかくだから、泳いで来ようか」  そう言えば、俺はプールもさぼりがちで、琥王が泳いでいる姿を見たことがない。 「そうだね」  琥王は容姿の良さで、常に人目を引く。しかし今回は、琥王は水着でも人目を引いていた。 「琥王……派手な海パン?」  蛍光のピンクに、黒い文字で何か描かれていた。一番星?デコトラのような文字であった。文字の周囲にキラキラとした、白い縁取りもあった。 「母が買ってきた、らしい」 「そう……泳ごうか。水の中なら目立たない」  琥王は水着で笑わせた人を、そのまま惹きつけていた。琥王、風呂でも思ったが均整のとれた筋肉も凄い。 「薬師神って泳げるの?」  あんまり得意ではないが、それなりに泳げる。 「それなりで、一通り」 「そっか」  琥王はクロールが速かった。 「薬師神って、服を着ていると華奢に見えるけど。結構、運動神経が抜群だよね」  俺がバタフライで泳いでいたので、琥王が驚いていた。 「でも、平泳ぎか背泳ぎが一番楽かな」  一時間程泳いでから、流れるプールで浮かんで流れた。 「そうだよね、体力を消耗しておかないと、隣で薬師神が寝ているのに、眠れないよね」
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