第1章

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「薬師神、池?」 「池を見ていたのではない。島を遠視していた」  店員に聞いても、俺の行く島の名前さえ知っていなかった。小さいだけではなく、かなり忘れられている島のようであった。 「家が三十軒くらいはあるけど、既に、灯りが付いているのは、一件もない」  閉ざされた島でもあった。 「なあ、薬師神。そろそろ、芽実さん、安廣さんはまずいのではないのか?お父さん、お母さんだろ」  習慣になってしまっていて、治らないのだ。 「そうは思うけどさ、今まで、そう呼んでいたからさ」  琥王と周囲を散策すると、部屋へと戻った。プールの横に、風呂もあったので済ませていた。ベッドに飛び込むと、琥王が窓を開けていた。 「おお、真っ暗のような海だけど、あれ、灯台かな」  灯台?興味をひかれて窓辺に行くと、琥王に捕まってしまった。 「友達でもいいけど、ちょっとだけ、期待させてね」  ちゅっという音とともに、琥王が俺にキスしてきた。 「期待?」 「そう、俺が特別だと思わせて」  琥王は、特別には違いない。  窓を開けたまま、ベッドに飛び込む。服を脱がせようとした琥王の手を、叩いて止めた。 「服を脱がせるのは、ナシ」 「じゃあ、キスはOKなのね」  琥王のキスは甘い。俺の唇を噛み、琥王が笑う。この笑顔を間近で見られるのならば、多少の事は許す。  俺が目を伏せると、琥王は深く唇を合わせてきた。舌でこじ開けられた歯の隙間から、琥王の舌が入り込んでくる。逃げようとすると、琥王の手が俺の頭を押さえ込んでいた。  自分の舌の上をなぞる、柔らかいが強い感触。咥内の上をなぞられると、ぞわぞわと内部がざわつく。そのまま、琥王の長い舌が、俺の喉まで塞ぎそうであった。  息が苦しい。いつ呼吸したらいいのか、分からない。琥王に口を塞がれて、溺れているような気分であった。  苦しい、喘ぐように息を吸おうとして、再び琥王に捕まっていた。目の端から、涙が滲む。 「薬師神、すごく可愛い」  琥王は、余裕で俺の頭を撫ぜて、再び唇を合わせる。 「ごちそうさま。又、明日ね、薬師神」  唇が離れると、耳元で琥王の声が聞こえていた。 「……おやすみ」  自分のベッドに移動したが、まだ鼓動が速かった。  琥王のキスだからなのか、気持ち良かった。もっとしていたかった。でも、琥王に、そんな台詞は言えない。  次の日の朝、窓を開けたままであったので、風が吹き込んできた。
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