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「薬師神、池?」
「池を見ていたのではない。島を遠視していた」
店員に聞いても、俺の行く島の名前さえ知っていなかった。小さいだけではなく、かなり忘れられている島のようであった。
「家が三十軒くらいはあるけど、既に、灯りが付いているのは、一件もない」
閉ざされた島でもあった。
「なあ、薬師神。そろそろ、芽実さん、安廣さんはまずいのではないのか?お父さん、お母さんだろ」
習慣になってしまっていて、治らないのだ。
「そうは思うけどさ、今まで、そう呼んでいたからさ」
琥王と周囲を散策すると、部屋へと戻った。プールの横に、風呂もあったので済ませていた。ベッドに飛び込むと、琥王が窓を開けていた。
「おお、真っ暗のような海だけど、あれ、灯台かな」
灯台?興味をひかれて窓辺に行くと、琥王に捕まってしまった。
「友達でもいいけど、ちょっとだけ、期待させてね」
ちゅっという音とともに、琥王が俺にキスしてきた。
「期待?」
「そう、俺が特別だと思わせて」
琥王は、特別には違いない。
窓を開けたまま、ベッドに飛び込む。服を脱がせようとした琥王の手を、叩いて止めた。
「服を脱がせるのは、ナシ」
「じゃあ、キスはOKなのね」
琥王のキスは甘い。俺の唇を噛み、琥王が笑う。この笑顔を間近で見られるのならば、多少の事は許す。
俺が目を伏せると、琥王は深く唇を合わせてきた。舌でこじ開けられた歯の隙間から、琥王の舌が入り込んでくる。逃げようとすると、琥王の手が俺の頭を押さえ込んでいた。
自分の舌の上をなぞる、柔らかいが強い感触。咥内の上をなぞられると、ぞわぞわと内部がざわつく。そのまま、琥王の長い舌が、俺の喉まで塞ぎそうであった。
息が苦しい。いつ呼吸したらいいのか、分からない。琥王に口を塞がれて、溺れているような気分であった。
苦しい、喘ぐように息を吸おうとして、再び琥王に捕まっていた。目の端から、涙が滲む。
「薬師神、すごく可愛い」
琥王は、余裕で俺の頭を撫ぜて、再び唇を合わせる。
「ごちそうさま。又、明日ね、薬師神」
唇が離れると、耳元で琥王の声が聞こえていた。
「……おやすみ」
自分のベッドに移動したが、まだ鼓動が速かった。
琥王のキスだからなのか、気持ち良かった。もっとしていたかった。でも、琥王に、そんな台詞は言えない。
次の日の朝、窓を開けたままであったので、風が吹き込んできた。
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