第1章

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 窓を閉じようと近づき、外を見ると、やや海が荒れていた。 「ああ、土地の神と俺の相性が悪いのかな」  まるで、来るなと言っているようであった。 「行かないほうがいいのか?」  問い掛けてみると、風が止んでしまった。 「行けということか」  やや、がっかりして時計を見ると、まだ起きるには早かった。 「琥王は爆睡」  眠っている琥王を覗き込んでいると、琥王の手が伸びてきて、俺の背を包んでいた。 「起きているのか?いや、眠っている」  俺も、そのまま眠ってしまった。  目覚ましで起きてみると、驚いて口をパクパクさせている琥王のドアップがあった。 「どうして、薬師神がここに?俺、寝ぼけて運んだ?」 「それに近い」  俺がベッドから降りると、琥王は名残惜しそうに温もりを確認していた。 「さてと、島に行こうか」  晴天であった。  朝食を済ませ、再びレンタカーに荷物を積み込む。船はカーフェリーなので、車のまま移動できるという。カーフェリーと聞いて、多少は大きな船を想像してしまったが、船着き場にあったのは、車三台程度で終了という具合の小さなフェリーであった。 「これも、フェリーなのか……」 「うわあ、海、綺麗だ。薬師神、蟹がいる」  琥王を無視して船に乗り込むと、つい外の展望場に行ってしまった。芽実と、安廣は室内で優雅にコーヒーを飲んでいた。  土地には土地の神が存在している。それは普段の影響度は低いが、異なる神が来る場合は荒れる場合もある。琥王の厄病神のような、メジャーな神ならば、どこにでも分身がいるのでいいが、俺はマイナーであった。 「神憑きは歓迎されていないのか?」  琥王は、俺の見つめる先を確認していた。遠くに、薄っすらと島が見えている。このフェリーは、他の島に行く船で、依頼があった場合にのみ、途中下車をさせてくれるのだ。 「古い神だね、形も留めていないけど、ざわついている」  船が発進し、波は僅かに荒くなったが朝方よりは穏やかであった。  俺は、手すりに島の地図を広げてみた。この島は、不思議でもあった。  船着き場が、住居部分からかなり離れている。島自体が小さいので、どこに在っても不便は感じないのだろうが、船着き場の正反対の方向に住居があるのだ。 「住居部分は、浅瀬みたいだね」  浅瀬の方角に住居部分があったが、フェリーは入って来られなかったのか。
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