第1章

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 船着き場から、山を登った先に神社があり、そのまま反対側に抜けられる。やはり、土地の神に挨拶しておいた方がいいだろう。 「俺、歩いて行くよ。神社に挨拶してくる」  この急斜面からすると、登山道であろう。車で行く事はできないが、距離はそう遠くはない。 「じゃ、俺も挨拶しておくかな」  島が近付いてくると、閑散としている船着き場が見えた。店の一件もない。 「安廣さん、俺達、山の神社に行って挨拶してから、そっちに向かいます」 「分かった、迷わないようにね」  山と言っても、ビルよりも低いだろう。 「はい」  けれど、登り始めると結構きつかった。足場が安定していないのだ。 「これ、道なのか?」  地図にも載っていたというのに、獣道よりも酷かった。草地の中に、時折標識がある。なまじ草があるので、足元の岩が見え難いのだ。 「足元、危険」  崩れないか確認しながら歩いていたので、予想よりも長くかかってしまった。  山の頂上付近に、木でできた鳥居があった。鳥居を抜けてみると、小さな神社が風に吹かれ続けて、朽ちた状態で残っていた。 「修復が必要だよね」  えんきり屋の賽銭箱の使い道が、一つ確定した。この神社を修復しよう。 「忘れられたと、泣いている」  忘れられているのではない、どこからでも、この山は見えている。 「この島の住人が、もう山には登れないのですよ……」  参道が険しいのだろう。 「そうか、参道の整備も必要」  神社の近くに腰を降ろすと、空を見てみた。こんなに青い空の下で、人を見守ってきたのか。 「参拝できなくても、住人が見ていられるように、大きな鳥居を建てたいですね」  でも、建物に神が住んでいるわけではない。これは、心に神を宿す、住民のためだ。 「琥王、賽銭を入れて行こう」  琥王は、必死に賽銭箱を治していた。底が抜けていたのだそうだ。 「ガムテープでいいかな?」 「どうして、ガムテープを持ち歩いているのか分からないけど、まあ、いいか」  ガムテープで賽銭箱を治し、琥王と賽銭を入れた。  次は下る。下りの方が怖い。 「俺、飛びたいけど」  砂利で滑るのだ。滑落してしまいそうであった。 「ここは狭い島なの、無理」  でも、琥王もかなり滑って落ちていた。 「おい、その斜面は降りるのは無理だ」
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