第1章

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 どこからか声が聞こえていた。俺達に言っているのだろうか。止まって声の主を探すと、下の茂みの中に、年老いた男性を見つけた。 「どこか、降りる道があるのですか?」 「岩場を降りなさい」  横に移動して、岩場に辿り着くと、かろうじて道のような物があった。岩を削り、足場だけ作成されていた。  岩場を降りると、茂みに行ってみた。 「あの、ありがとうございます。山菜ですか?」 「そうだ。夕食だ」  ここは海産物だけではなく、山菜もあるのか。 「山に登っていたのか?」 「船着き場の方から、神社を参拝してきました」  老人は、山菜を探しているが、かなりの年齢のようで足元がふらついていた。 「同じ物を探せばいいのですね」  老人が持っていた山菜と同じものを、琥王と探しては採取する。 「もう、いい。今日は、どこに泊まるのか?」 「宿泊所を借りていると聞いています」  老人は、僅かに首をひねった。 「夕食はどうするのだ?」 「車に非常食も積んでいますが、貝もいいですよね。でも、ここの海は漁業権が要りますよね?」   非常食は、クッキーであった。拒否された場合は、クッキーでいい。 「この島に来たということは、親戚が居るのだろう。そこで、貝でも魚でも食べさせてもらえばいい」 「……俺、血が繋がっていませんから、もてなしはないでしょう。まあ血が繋がっていても、いつも、親戚からは罵倒ばかりで、俺、両親が死んでいますから」  安廣の親だけが好意的ではあるが、叔父と同居なので、そうそう会わない。  斜面は平になることはなく、海が見えてくると家が並んでいた。どの家も斜面にくっついているかのように、小さく、屋根ばかり見える。  くすんだ灰色の屋根は、塩辛いような色に見えた。 「……世の中は辛いかね?誰か、恨んでいるのかね?」 「恨みはありません。感謝しています」  地図によると、借りた家は近くに在った。 「それでは、俺達、こっちみたいなので行きます」  集落の外れの家、門を入ってみるとレンタカーがあった。 「すいません、遅くなりました」  荷物が降ろし終わっていなかったので、降ろしてみると、家の中は空であった。持ってきていた土産も無いので、先に挨拶に行ったのかもしれない。 「台所は使えるのか?」  しかし、使えたとしても、余りに旧式で使い方が分からなかった。 「ここは、いつの時代なのか……」
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