第1章

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 玄関から教室に入ると、クラスの異なる琥王とは離れる。俺の周辺には、パン仲間とあだ名される連中が寄ってくる。森のくまは人気のパン屋で、パン目当ての連中が勝手に集まってくるのだ。  俺も朝食にするが、集まる連中には二度目の朝食というものも居た。琥王も混じり出すと、パンの減りが速い。ここのメンバーは、だいたいいつも同じで、パン仲間と一括りに呼ばれていても気にしていない。 「忽那、新作、食べるか?」 「薬師神、新作を食べるのは俺だろう」  琥王は、新作の前の試作で食べさせていた。 「琥王は、もう試食しているだろ?他の意見も聞きたいのよ」 「でも、新作は俺の!」  琥王は二枚目と一言で片付けられない、猛獣の気配もしていた。金色に近い瞳に、同じ色をした髪。まるでライオンのようでもあった。忽那は、争う様子はなく、琥王に新作を渡していた。 「薬師神は、修学旅行は行かないのだよね。琥王も行かないのか?」 「行かない」   俺は、学校の行事に参加していなかった。両親がいない事は、周囲も知っているので、行事に無理強いをしなかった。俺も参加しようと思っていなかった。 「それでは……つまらないよね」  俺がいても、いなくても大差はないであろう。  しかも、よくよく場所を聞いてみると、最近、人探しで行った場所でもあった。修学旅行は、海外にでも行くのかと思っていた。 「薬師神は、修学旅行中も変わらず、学校と森のくまだよね」 「それが、そうもいかなくて。森のくまの店長の芽実さん。母方の祖父母がまだ健在でさ。挨拶に行ってくる」  養子になるので、挨拶をしてくる。 「ええ、薬師神、いないの?」  琥王が、かなりがっかりしていた。 「日々、パン食べ放題だと思っていたのに」  パンが目当てであったか。 「じゃ、金曜の夜から、土曜、日曜にかけて行ってくるよ」 「ええ、土日いないの」  では、いつ行ったら良いのだろうか。 「……いつ行けばいいの?」  琥王が、嬉しそうに笑っていた。 「冗談だって。そんなに遠いのか、金曜の夜からか、夜行も楽しいよね」  知らないうえに、突然、爺さんやら婆さんが増えても、全く楽しくなかった。  授業が始まるので、琥王は自分の教室へと帰って行った。
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