第1章

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 今日の一時限目のミーティングは修学旅行の班割で、行かない俺は、図書館に行ってもいいこととなった。他にも数人、参加できない者がいた。クラスでは一割弱が、行かないのだろうか。  席を立って教室を出ると、陸上部の住吉(すみよし)と、天満(てんま)と一緒になった。陸上競技会で、俺はこの二人の記録を抜いてしまっていた。やや、気まずい。 「薬師神、背中に書かれた、サルは消えたのか?」  嫌味を言われても、耐えるしかないか。俺は、神憑きで、運動神経は人間業ではない。気を付けなければならなかったのだ。 「酷いよな。あのペイント、犯罪者に投げるボールの塗料と同じだったらしいよ。落ちないよな」  嫌味というわけではないらしい。俺は、陸上競技会の棒倒しで、背中にサルとペイントされていた。今も、その写真が出回っている。 「……消えたよ。確認するか?」 「いや、いいよ」  天満は、日に焼けた顔で楽しそうに笑っていた。 「ここで、薬師神の服を脱がせていたら、又、騒ぎが起こるって」  想像して、笑っているらしい。  図書館は、校舎と別棟になっていた。かなりの蔵書量で、研究室や半個室なども備えていた。ここで、受験勉強している連中もいる。  図書館に入ると、司書の先生には、俺達が行く事が事前に連絡してあった。そうでなければ、授業中に出入りできない。  適当な椅子に座ると、俺は眠りに入ろうとした。しかし、天満も横に座っていた。 「大変だよな。中学から家の手伝いだろ。それに今も、だろ。親がいないと辛いよな」  これは嫌味なのか、それとも、そのまま捉えていいのか。それとも、無視して眠るか。 「天満……薬師神が返事に困っているよ。俺達は、大会があるから、修学旅行は行かない。 薬師神よりもタイムは悪いけどね。陸上が好きだからさ」  住吉は、優しいおとなしい顔立ちであった。悪く言えば、特徴もない。 「天満は、薬師神が陸上部だったら、いい記録を出せたのにと、悔しがっていた。家庭の事情は分かるけど、全国大会レベルの足なのにね。俺も悔しい」  俺は人を見る目がないが、きっと住吉はいい奴だろう。そんな気がした。 「親が居なくても、叔父がいてくれたよ。それに、俺はパンを焼くのも好き。当初は、居場所が欲しくて働いていたけど。今は、寂しくないし辛くもないよ」  ひねりのない回答をすると、天満がクスクスと小さく笑っていた。
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