第1章

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「……あんまり性格に癖がなかったのか。悪評も多かったけど、そんな素振りはないし。最近は琥王ともつるんでいるし。案外、面白い奴だな」  悪評は何だったのか、聞きたくはない。 「しかし、薬師神の足、速いよな……」  それから、陸上について熱く語ってしまった。俺は陸上が特に好きというわけではないが、練習方法の大切さを痛感していた。それは、パンも同じであった。日々の練習で、本番ができる。 「体育祭で、又、サル技を使ってよ。あれも凄かったから」  サル技。ややショックな響きであった。 「体育祭では、棒倒しはないし、騎馬戦では必要ないし」  それに、サルと言われたくない。 「それでは純粋に、クラス対抗リレーで、一位を目指そうか」  陸上競技会と、体育祭の差は何だろうか。他に、球技大会というものもあった。 「いや、リレーはいいけど、一位は結構きついよね」  住吉は、ハードル走だし、天満は長距離ではないのか。 「リレー参加はいいのか、では今年は参加してよ。期待しちゃったよ、俺」  天満、甘い顔をしているが、結構、口調はきつい。 「わかった」  それから又、陸上の話で盛り上がり、あっという間に一時限が経過してしまっていた。教室に帰ると、雰囲気が悪かった。 「何かあった?」  皆、ギクシャクとしていた。忽那は、微妙な顔をすると、小声になった。 「いつもは、天満が男子を仕切っているわけよ。で、今回は天満もいないし、まとめ役の住吉もいないしで、全然、進まない」  クラスの構図を、俺は理解していなかった。  天満は、そんな奴だったのか、目で追い掛けてしまうと、琥王がベランダからやってきた。 「そうそう、隣は琥王がいないから、進まないらしいよ」  そうか、天満と琥王は、どこか似ていた。どこがと言っても分からないが、マイペースではある。  琥王が来ると、教室の空気が変わる。女性生徒が、琥王を目で追っているし、どこか華やかであった。 「……薬師神、パンを分けて。腹、減ってしまって」  琥王は、無類のパン好きであった。 「はいよ」 「ありがとう、やっぱり、俺の夢はパン屋になって、薬師神に毎日パンを焼いて貰う事だ」  パン屋になるのはいい、どうして俺がパンを焼くのかが不思議であった。  そういえば、琥王が修学旅行に行かない理由は、はっきりとは聞いていなかった。聞けば、俺が行かないからだと言うが、それが本当の理由とは思えない。
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