ソーダ飴

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「そっか、律儀だな」 俺は飴玉の包みを剥がし、正樹はタバコに火をつける。 燻る煙が鼻元を通り抜けると、少しだけ懐かしく感じる。 少しの間だけ飴玉を舌の上で転がすが、まだ大きな飴玉を直ぐに噛み潰した。 「……ははっ」 正樹はこちらを見て少し笑った。 「なんだよ、急に笑って」 どうしてか嬉しそうな正樹を怪訝に思う。 心当たりを探すがよくはわからない。 「ああ、やっぱりお前と親父さんは親子なんだなって思っただけだよ」 「なんだよ、わかんねぇぞ」 正樹はまた小さく笑う。 「飴玉だよ、飴玉」 「飴玉がどうしたんだよ」 「噛み潰すだろ、お前」 口の中のザラザラとした飴玉の欠片を舌で掻き回す。 飴玉を噛み潰すのは子供の頃からの癖だ。 ふと、せっかちだと言って困った顔で笑う母の顔を思い出した。 忘れていた思い出だったが、薄く膜のようなものに覆われたその思い出は確かにまだ俺の中に残っていた。 「お前の親父さんもだったよ。飴玉噛み潰してた」 タバコを吹かしながら笑う正樹はまたどこか遠くを見ている。 「ああ、うん。そうだったかもな」 親父の生きていた頃。俺のまだ小さな頃。 たまに車に乗せてもらって釣りに連れて行って貰ったことがあった。 助手席に座る俺に父は何も言わずに飴玉をくれた。確かそれもソーダ味だった。 親父も一緒に飴玉を口にして放り込んで、同じに噛み潰していた。 「親父、死んじまったんだな」 「今頃かよ、息子」 「本当に今頃だよな」 ソーダ色の空の下、あまり会わない従兄弟と2人してケラケラと笑った。 口の中の飴玉は無くなってしまったけれど、いつもより長く懐かしい味を俺に残してくれていた。 Fin
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