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「今日は、ありがとうございました。それから、ごめんなさ……」
謝りかけた私の言葉を佐倉さんが塞いだ。
「謝らなくていい」
「……」
「謝らなくていいから、来週の土曜日空けておいて」
顔を上げて、佐倉さんを見る。
彼の瞳が、真っ直ぐ私を捉えていた。
「それじゃあ、また会社で」
「はい、また……」
私は、助手席のドアを開けると、車を降りる。
佐倉さんの瞳が少しだけ私を見つめた後、シルバーの車は去って行った。
家に戻ると、ちょうどお母さんが門の側に立っている。
「結衣、お帰り。早かったのね」
「うん」
「それはそうと知らなかったわ」
「何が?」
聞き返す私に、お母さんがにっこりと笑って言った。
「彼氏いたのね」
「え?いや、あれは違……」
「いい人そうじゃない」
誤解したまま、家に入っていくお母さんを見ながら、私は複雑な思いで、小さくため息をついた。
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