5piece 見えない本心

2/39
前へ
/39ページ
次へ
  (分からない……) 顔を上げると、熱いシャワーが瞼や頬に降り注ぐ。 肌は体温を上げていくのに、いつまでも体の芯が冷えきっているような……そんな感覚を覚えた。 濡れた長い髪を両手で掻きあげる。 あれから、東条社長に、自宅の最寄り駅の近くまで車で送ってもらって別れた。 表情が強ばっていた私と違い、彼の表情は別れるその時まで全く変わらなかった。 (どうして……?) シャワーの音を聞きながら、心の中で、もう何度繰り返したか分からない疑問を繰り返す。 私はシャワーを止めると、浴室を出た。 バスタオルを頭から掛けて、洗面台の鏡に映った自分を見つめる。 今夜のデートが始まる頃の嬉しそうな顔とは正反対の、ひどく戸惑う顔が、そこにはあった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加