5piece 見えない本心

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佐倉さんの言葉に、不意に、菜々美の顔が曇った。 「……そんな過去の話まで持ち出すの?」 菜々美は飲みかけのグラスを置くと、傍らのバッグを肩に掛ける。 「私、美味しいお酒しか飲まないの。今日は帰るわ」 そう言って、菜々美は立ち上がり、店の入り口の方へ向かい始めた。 私は慌てて、自分のテーブルに戻る。 「待てよ、白石!」 佐倉さんの声が後ろでしたと思うと、伝票とスーツの上着を持った彼が、菜々美の後を追うように足早に去っていくのが見えた。 「ふぅ……」 幸い二人には見つからずに済んで、思わずため息が漏れる。 だけど……。 東条社長に聞きたいことが、もう一つ増えてしまった。 立花 葵さんのこと。 そして……菜々美のこと。 彼女たちのことを聞いた時、彼はどう答えるんだろうか? 冷たいスマホの画面を見つめながら、私は考えていた。
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