第1章:ベルベッドの小箱

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 目の前に出されたモノに、一気に何かが背筋を這いあがってくるような感覚に襲われた。  鳥肌とは違う。恐怖とも違う。気持ち悪いわけではない。  説明し難いけれどすわりが悪いと言うか、どうしたらわからないというか。理由だけは明らかだ。  小さな、私の手の上にすっぽり収まってしまう程の小さな箱。  真四角の、真っ赤なベルベット。  目を奪う毒々しい色は見るからに手触りと質の良さそうな生地と中和され、品の良いワインレッドにしか見えない素晴らしい造りだ。  ……なんて、どこか客観的に見ている自分がいる。いや、そうあろうと努めているのだ。  だってこんなの、妹が見てる恋愛ドラマや映画の類でしか見たことがない。  だけど知っている。見たことがある。  クリスマスやホワイトデーにはここぞとばかりに宝飾店が軒並み新作を出して手招きをし、かといってシーズン物ではないからか常にショーウインドウに飾ってあることくらい、知っている。  女性ファッション誌に至っては『これこそが女の子の夢』だとロマンチックに謳うわりにその下には値段がキッチリと印字されていて、女性の現実的な部分が垣間見えて面白いとさえ思いながら読んでいた。  自分には関係ない。そう思っていたから。  今、目の前に出されるまでは。  これは所謂、もしかして、もしかしなくとも。  こう、箱をパカっと開けたらキラーって光るアレが入っている、アレですか?
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