第一章 後輩

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 しかし、問われたからには答えが必要だ。   「……何が」 「いい?」 「だから何が」 「紫さんから会いに来るとか初めてだしさ」 「……うん」 「二か月くらい? 会ってなかったでしょ」 「……そうだったっけ」 「わかって言ってる? 焦らしてんの?」 「そんなこ」  と、を言う間もなく唇を塞がれた。  目の前にある瞳を伏せたその睫毛も、やはり長い前髪で少し見えにくい。  そこまで見てから、閉じるのを忘れた瞼を改めて伏せる。    晴己の背中にゆっくりと両手を回すと、それに応えるように私の左耳を彼の右手が優しく擦った。  しばらく左耳をいじっていた右手はやがて首筋へと下りてくる。  左手はがっちりと、少し身じろぎをする私の腰に回されたまま。  そう。  この子と会うのは、久しぶりなのだ。  だからわかっていた。会ったら、どうなるのか。
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