第一章 後輩

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 どのくらい時間が経っただろう。  目がさすがに疲れてきた。  瞳が乾き気味だと眼科医に言われているにも関わらずコンタクトをしてきたのがマズかったとわかってはいるが、今更どうしようもない。  そろそろここから出ようと作業に取り掛かったその時、音がした。  ―――シュッ  私が入った時と同じ、扉が開く、あの音。  席に着いた時から今の今まで、音がするたびに視線を向けていた。  今回も例外なくそうすると、瞳の奥に焼き付ける程何度も見返した顔があった。 「……あ」  思わず声が漏れる。  その声が相手に聴こえていたかはわからないが、何気なくぐるりと部屋を巡った視線がぴたりと止まる。 「……(ゆかり)さん?」  目を見開き、心底驚いた表情を見せている相手に向かって私は微笑む。 「久しぶり」  唇だけでそう告げると、外に出ようか、という身振りで彼を誘った。
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