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「おじさんの右手に注目」
言われるがままに右手を見ると、ナイフを手にしていた。刃渡り18センチくらいのぺティナイフ。
「な、なんだこれは……」
全く身に覚えのないものだ。いつ掴んだかさえ定かではない。ヌラリとした艶めかしい光沢が恐ろしい。こんなものを持って、街を歩いていたなんて。
捨ててしまいたくて、左手で右手の指を開こうしても、右手はビクともしない。
「無理無理。それに、そのナイフは絶対に必要だから捨てようとしないで。そのナイフは、おじさんのマウスみたいなもの」
「マウス?」
「そう、パソコンのね。パソコンのマウスはクリックして選択するけど、おじさんは、そのナイフを使って、人の左胸を刺すの。刺すことで、選択したと見なされる。だから必要。捨てたらいけない」
「刺せるわけないだろ!!」
「何で?」
「何でって、それは犯罪だ。僕は人殺しにはなりたくない」
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