五臓六腑に染み渡る

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「部長、もう十分でしょ。止めて下さい」  その女性こそが僕の愛した竹田瞳だった。黒縁眼鏡。伸ばしっぱなしの重たい髪。一言で地味。それでも取引先の彼女のことは前々から知っていた。コツコツと真面目。とにかくミスが少なく、安心して仕事を任せることが出来る。  そんな彼女のことを僕は嫌いではなかった。実際、それがきっかけで付き合い始め、瞳はオシャレをするようになった。眼鏡からコンタクトに、髪型も雑誌に載っているような軽い感じに。メイクだって変えたかもしれない。  そして瞳は見違えた。彼女は予想以上に美人だったのだ。そんな変身した瞳を高橋は目撃した。僕と一緒にいるところを見たのだ。そればかりか得意先の人間だと気づいてしまった。  その頃、僕は瞳との結婚を意識していた。結婚を仄めかす話だって二人の間で出ていた。
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