五臓六腑に染み渡る

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 記憶が靄がかってしまっている。何かしら仕事をしていたという手応えのようなものは感じ取っている。電車で通勤していたということも。それなのに、職場がどこで、自宅がどこかという当たり前のことが思い出せないのだ。  今日は平日のばずだ。人の往来の中に、スーツ姿のサラリーマンの姿も多い。だとしたら会社に出勤しなければならないばずだし、遅刻するようなことがあれば、会社への連絡くらいは常識だ。  そこまで分かっているのに、その先に進めない。 「お困りのようだね?」  背後から声をかけられた。振り返ると、中学生のくらいの男の子が一人立っていた。  ジーンズにトレーナーと言う平凡な出で立ち。背の高さも見目も、特にこれと言った特徴を感じさせない。  大丈夫だよ。少年はニコニコ笑っている。
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