番犬

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 だからそういう危険を防ぐために、戸締りだけはしてくれと再三訴えてきたのだけれど、いつでもじいちゃんは笑うばかりだ。  そんなことを何度か繰り返した末に、俺は荒療治に出ることにした。  方法は簡単。夜中にじいちゃんの家に行き、泥棒のフリをする。そしてじいちゃんに、今のままじゃ、こんなに簡単に悪い奴は入り込むのだと説明する。  そんな計画を練り、ついに今夜、俺はじいちゃんの家に忍び込んだ。といっても、果たしてこれを『忍び込む』と言っていいのだろうか。  縁側の窓は、施錠どころか、風通しのために半分ほど空いたままだ。物音さえ立てなければそこから家に上がるのはたやすい。  ああもうまったく。こんなに簡単に押し入られちゃうなんて、じいちゃん、もっと危機感持ってくれよ。  生身の犬が庭にも屋内にもたむろしていたあの頃ならいざ知らず、置き物じゃ、何の役にも立ちゃしないんだから。  そんなことを思いながらじいちゃんの部屋に向かっていた俺の歩みを、一体の置き物が阻んだ。  俺もしょっちゃう見ている陶器製の柴犬だ。だけどこの置物、こんな所に置かれてたったけ?  うううううぅぅぅ。  ふいにどこからか低い唸り声が聞こえた。  昔よく聞いた犬の威嚇の声。  この近所に犬を飼っているお宅があっただろうか。そう思うより早く、もう一度犬の唸りが響いた。目の前の置き物から。  陶器の置き物が唸ってる?  何で? ただの置き物だと思ってたけど、こんな仕掛けが施されてたのか?  何が何だか判らず茫然としていると、また唸り声が響いた。  今度は背後から聞こえたそれに驚き、振り返ると、さっきまではなかった筈のダルメシアンの置き物が真後ろにあった。…いいや、ダルメシアンだけじゃない。  いつの間にか俺の周囲には、じいちゃんの家に存在している総ての犬の置き物が揃っていた。  それらが皆低く唸りながら俺を見ている。  陶器の置き物がどうして集まって来てるんだ? 何で唸るんだ? そんなにぎらついた目で俺を見てるんだ?  ふいに、TVで見た警察犬育成の映像を思い出した。  訓練された犬達が、犯人に見立てられた人形を囲む。そして、警察官の指示で一斉に飛びかかる…襲いかかる光景が頭の中で渦を巻く。  百匹近い犬達。置き物だけど置き物じゃない犬達。それが、俺を敵として見ている。そして、敵ならば…。
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