番犬

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番犬

 じいちゃんの家は、自宅から徒歩で二十分くらいの所にある。  俺が幼稚園くらいの頃までは、かなりのどかな田舎町という雰囲気だったけれど、周辺の宅地化が進み、今ではそこそこの住宅地だ。  そうやって人が増えると、悲しいことに色んなトラブルが増えてくる。  中でも頻繁になったのが空き巣の出現で、母親経由で、どこそこの家が被害に遭ったなんて話聞くこともたびたびだ。  じいちゃんは昔からのんきで、防犯意識なんてものは皆無。留守にしても戸締りはしないってタイプの人だから、孫の俺が見張っていないとと思い、遊びに行くという名目で足繁くじいちゃんの所に通っていた。そして、最近はこの近所も物騒だから、せめて戸締りはしてくれと懇願するように訴え続けた。  だけどそのたびじいちゃんは、 「この家に盗られるモンなんてねーよ」  そう笑うばかりだ。  確かに、資産の何のとは縁のない生活だけど、それでも人が一人で暮らしている以上、少なからず金品はあるものだし、何より一番怖いのは、空き巣が居直り強盗になってじいちゃんらに害を為す可能性だ。  その辺りもしつこいくらい言い聞かせるのだけれど、やっぱりじいちゃんは笑って聞き流すだけ。どころか、しまいには、ウチにはこいつがいるから大丈夫だと、家のあちこちに並べた置物の犬の象を指差す始末だ。  俺が小さかった頃、じいちゃんの家にはやたらとたくんさの犬がいた。じいちゃんも、当時はまだ健在だったばあちゃんも無類の犬好きで、近所で生まれた子犬をもらったり捨て犬を拾ったりしている内に、軽く十匹以上になったらしい。  だけど数年前にばあちゃんが他界してからは、自分もいつあの世に行くか判らないから、その時犬達に悲しい思いをさせたくはないと、駆けずり回って貰い手を探し、じいちゃんは飼っていた犬達を一匹残らず手放した。  でもやっぱり寂しかったらしく、それ以降は、陶器でできた犬の置き物を家のあちこちに飾るようになった。  確かに、大小とりどりの百体近い犬の置き物が家中に置かれていたら、それは違う意味で怖いけれど、防犯になるかというと疑問だ。  空き巣に入ったら最初は驚くかもしれないけれど、しょせんは置き物。すぐに見慣れてしまうだろうし、下手をしたら、居直り強盗の際にそれらを凶器として使用するかもしれない。
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