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「『それ』渡さないの?」
「渡さない」
「じゃあ、『戻すの』?」
「戻さない」
「今日中にお渡ししなければ意味を成さないのだろう?」
「ええ、そうよ。今日中じゃないと意味がないわ。今日はご主人様のお誕生日だから……。でもいいの。それでも離したくないの……。今日が過ぎれば『これ』は『戻して』も大丈夫だから、だから、今夜が過ぎるまで、私がこうして守るの」
そう言って、彼女はそのとおりにして主人の不興をかい、翌日に消えた。
「あのね、2月14日ってね、大事な人への贈り物をする日なんだって。だから私、魂抜きの呪文を使ったの。『貴方の心が欲しいです』って」
胸に抱える箱を大切そうに見つめて笑っていた。
「そうしたら『良いですよ、あなたなら』って………驚いちゃった」
とてもきれいな笑顔だった。
「『これ』がご主人様の力になるってわかってるけど、それでも、離したくないの」
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