第2章

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「グリサードの義父上からの返事だ。 秘薬の使用者はかつておらず、文献は特殊な 暗号で書かれていて、それを読み解ける者が 見つからないと。現在できる唯一の術は、 効果が薄れるのを待つのみ、だと」 秘薬の効果を消す方法を記した書物を 読むものがおらず、手立ては、時間の 経過を待つのみ。 手紙を読んだ王の言葉に、それを聞いていた 三人は、それぞれに大きく落胆の態を見せる。 スコットは唇を噛んだ。 イライザは大粒の涙を零す。 お気に入りの安楽椅子に座っていた エリエンヌは、絶望感にきつく目を閉じた。 もっとも、誰にもそれは見えなかったが。 その日から、エリエンヌは幽霊として 生きる道しか無くなったのだ。 王妃の死を知った民は、深く悲しみ、 エリエンヌの輿入れ以来、温かで明るい 雰囲気に満ちていた城内は、次第に陰鬱で 暗いものとなって行った。 王は以前に増して口数少なく、気難しい 顔をしている事が多くなった。 花嫁を迎えて、時には笑みさえ見せていた 王は、元の不愛想な男に戻ってしまった。 そして、王妃の死以来、城の者達は、奇妙な 現象に悩まされ始めた。 「ねえ、昨夜聞いたのよ。塔に続く廊下で パタパタ走る足音を」 「私は裏階段を上る、白い人影を見たわ」 「俺は中庭で鼻歌を聞いたんだ」 日中部屋から出る事の叶わなくなった エリエンヌは、夜な夜な部屋を出て 城内を歩き回った。 元々活発な彼女を、ずっと部屋に閉じ込めて おくのは、難しいこと。 時には王も、彼女と歩く事があったが、 奇妙な現象と共に、この行動も噂の的となった。 なぜなら、王が城内を歩く時、その手には 必ず亡き王妃のドレスを持っていたから。 それも、まるでレディをエスコートするように。 恭しくドレスを扱う王に、それを見た人々は、 王は悲しみのあまり、気がふれたと言う者まで 出てくる始末。 しかし、それ以外は全くおかしな所は無い。 「そっとしておこう、お二人は心から 愛し合っておられたのだから」 誰ともなくそう言い合って、王の行動は 見て見ぬふりをされた。 一年、二年と過ぎるうちに、やがて城の人々は、 すっかり慣れてしまい、気にする者は無くなる。 そんな中で、心穏やかで無い者がいた。 それは、他でも無い国王その人だった。
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