第一輪

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  「かなちゃん!これ!!」 紫陽花を一輪渡すのが精一杯で、 僕はそのまま振り返り雨の中を走った。 引っ越しと共に、僕の初恋が終わる。 雨なのか涙なのかわからない。 ぐちゃぐちゃで終わった初恋。 「・・・と、これが俺の初恋だ」 「え~、何か切な~い!」 「滝さんだったら、もっと良い初恋してると 思ったのにぃ!」 好きな事を言ってやがる。 「こんなに言われるなら 話さなけりゃよかった」 俺は、例え罰ゲームとは言え 話した事を心から後悔した。 「だって、滝さんがそんな純粋な心を 持っているなんて信じられませんよ」 「俺だって、小学校の頃は純粋だったさ」 レンタルビデオ店で働いている同僚と ちょっとしたゲームをしたら 見事に負け、罰ゲームとして 初恋の話をしないといけなくなったのだ。 「だって、女性をストレス発散としてしか 考えてないでしょ?」 久美(くみ)がこんな事をあっけらかんと言う。 久美は21歳で、顔立ちもかわいいので 男受けは良い。 「そうそう。 だから、彼女とか作らないんでしょ? 私なんか、ずっとアプローチしてるのにな」 静(しずか)がそう言いながら 身体を寄せてくる。 静は25歳で、顔は美人とは言えないが スタイルが良く色っぽい雰囲気を出している。 「お前の毒牙にかかったら 働けなくなるからな」 さりげなく身体をずらして離れる。 「さ、休憩終わりだ。 仕事仕事」 わざとらしく、立ち上がって二人を 促した。 「はぁ~い」 二人ともめんどくさそうに立ち上がり 休憩室を出て店内へ向かう。 俺も、次の休憩のスタッフと交代して カウンターに入った。 平日の昼間なので、そんなに客は多くなく カウンターの中で作業をしていたら 「あの・・・すみません」 女性が困ったように立っていた。
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