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「さて、と」
無事に先輩たちに菜摘を預け、後で迎えに行くから待ってろ、と約束して引き取らせたあと、俺は改めて青木の奴に向き直った。どこから始めればいいんだろう。
「どうする?何か言いたいことあるんだろ。ここじゃ落ち着かないなら、場所変えるか」
「いや、いい。ここで」
青木の野郎はこっちの目を見ずに、ぼそぼそと言った。菜摘が目の前からいなくなると、気力が萎えたというか、毒気が抜かれたようだ。
どうなんだろう。ベンチに腰掛けるべきか。しかし男二人でこんな住宅街の公園で並んで座っているのも何だか。菜摘と二人ならともかく。でも、滑り台や鉄棒の横で突っ立っているのも何だか間抜けだ。
どうでもいいことを悩み始めた俺に、青木が何かを小さな声で尋ねたようだった。
「は?…何?」
訊き返すと、奴はよりはっきりした声で言い直した。
「あいつといる時、何話してんだ、新崎」
え。…意表を突かれて、口ごもる。そこか。
「うーん…、何だろ?その時その時で違うし。一概に言えないよ」
「さっき、ベンチのとこであいつすごい笑ってた。あん時はなんの話だったんだ」
そこら辺から見てたんだ。俺は思い返す。あれは…、『お前』でいいや、って菜摘が言ってくれた時だ。少し躊躇する。それは俺にとってはちょっと大切な話だ。あまり気軽に聞かせたくはない。適当に誤魔化す。
「…大谷を尻の下に敷かないように気をつける話、かな」
「はぁ?」
胡散臭そうに俺を見る青木。それでベンチの上に置き放しの週刊誌に気づいて回収する。まだ読み終えてないし。
「俺といる時、菜摘があんな風に笑った記憶がない」
青木が俯いてぽつりと口にした。俺は反応に困る。そんなこと言われても…。
「俺だって、最初から菜摘とこんな風に喋れたわけじゃないよ。初めは大人しいし暗いし、話題がなさそうで参ったなぁと思ったもん」
正直に言うと、青木の奴は何故か憤然と反論してきた。
「何言ってんだよ、あいつは暗くなんか全然ないよ。最初は大人しい子なのかな?って俺だって思ったけど、話してみると意外と話題も続くし、ちょっと偏屈で辛辣だけど、面白い女だよ。一緒にいて退屈したことなんかないぞ」
あっそ。
「…てか、それは俺も知ってるけど、今は。じゃあ何が問題なんだよ」
呆れて尋ねると、奴は可哀想な程表情を曇らせた。
「何て言うか。…情がないんだ。俺に腹を割ってはくれない」
俺は唸った。そこか。
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