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穏やかにマジギレした事務員さんが相当怖かったのか、それとも ”電話機100万円” にビビったのか。社長は本当に素早く、
ちゃっちゃっと高田さんに電話して
サクサクっと高田さんを事務所に呼び
そして契約書原本をガッと高田さんから奪い取った。
いや、私は確かに「奪い取れ」とは言いましたよ。
でもそれは比喩です。例えです。
そんくらいの気合で行けっていう脅しです。
いい年してそんなやり方しか思いつかないのは社長位です。
高田さんの横に立って茶を出そうとしていた私まで、奪い取るための共犯者なのかと思われてしまいます。
しかし社長は本当に、高田さんの顔がお好きなんですね。
なんとか書類を返してもらおうと
「いや、だから」
そう困っている高田さんの顔を、嬉しそうに眺めるのは止めましょう。
あなた本気で契約破棄してもらう気ないでしょ。
まさか高田さんに会いたいがためだけに、電話して事務所に呼び戻した訳じゃないですよね。
そんな風景を横目で見ながらも、滞っていた今日の仕事をこなしていた私はつい仕事の手を休め、
「欲望だけで生きられる社長っていいよね」
なんて思いながら生あたたかい気分で応接室を見ていたら、ふと高田さんと目が合い、
なんとなくおかしくなってニヤッっと微笑んだら、辛そうな顔をして目をそらされてしまいました。
あ、助けて欲しかったんでしょうか……
無理だけどな。
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