事務員さん #04 「だから社長、そうじゃなくて…」

3/3
476人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
穏やかにマジギレした事務員さんが相当怖かったのか、それとも ”電話機100万円” にビビったのか。社長は本当に素早く、 ちゃっちゃっと高田さんに電話して サクサクっと高田さんを事務所に呼び そして契約書原本をガッと高田さんから奪い取った。 いや、私は確かに「奪い取れ」とは言いましたよ。 でもそれは比喩です。例えです。 そんくらいの気合で行けっていう脅しです。 いい年してそんなやり方しか思いつかないのは社長位です。 高田さんの横に立って茶を出そうとしていた私まで、奪い取るための共犯者なのかと思われてしまいます。 しかし社長は本当に、高田さんの顔がお好きなんですね。 なんとか書類を返してもらおうと 「いや、だから」 そう困っている高田さんの顔を、嬉しそうに眺めるのは止めましょう。 あなた本気で契約破棄してもらう気ないでしょ。 まさか高田さんに会いたいがためだけに、電話して事務所に呼び戻した訳じゃないですよね。 そんな風景を横目で見ながらも、滞っていた今日の仕事をこなしていた私はつい仕事の手を休め、 「欲望だけで生きられる社長っていいよね」 なんて思いながら生あたたかい気分で応接室を見ていたら、ふと高田さんと目が合い、 なんとなくおかしくなってニヤッっと微笑んだら、辛そうな顔をして目をそらされてしまいました。 あ、助けて欲しかったんでしょうか…… 無理だけどな。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!