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「いや、だからこれは法人の契約になるので、クーリングオフは出来ないんです」
「でもまだ、会社に提出してないじゃない」
「そうですけど、普通に考えたら印押して相手に渡した時点で完了ですから」
「高田さんが破棄すれば、なかったことにできるんじゃないかしら」
「いや、だから」
「なんなら私が今破ったり、シュレッターしちゃえば証拠はゼロよね」
「………」
「コピーもまだ無いだろうし」
「………」
「だから諦めて帰ってくれないかしら」
「無理です…」
さっきから不毛な言い合いを繰り返してばかりで疲れてきた僕は、少し落ち着こうかと何気なく横を向く。
すると何時間か前と同じようにこちらを見ていた事務員と目が合った。
ただ何時間か前と違うのは、社長と僕は大きめな声で言い合いしているので話の内容が筒抜けだということだ。
そのせいか事務員は心配ではなく楽しそうな顔をしていて、ちょっとザマーミロ的な雰囲気も出してきている。
なんか辛い……
そして凄くムカツク……
契約書奪われました、なんて会社に相談も出来ないし……
そう考えていた時、ふと思った。
この社長、契約した時には僕のことをウットリと見つめていたから、きっとこの顔はかなりタイプのはず。
最初に簡単に契約してくれたのも、確実に僕の顔のせいだ(と思う)
だから僕に好かれたいし会いたいはずだ、って。
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