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ドアをノックする音が聞こえたので「はい、どうぞ」と反射的に返事をすると、ガチャっとドアを開けて入ってきたのは、どこをどう見ても営業マンだった。
(チッ、いま忙しいのに)
心の中で毒づいてから笑顔を作り、担当か社長をという彼に定番の言葉を返す。
「今はどちらも不在なので…申し訳ありません」
するとふと私の背後を見た彼は、こう尋ねてきた。
「あの、後ろの方は社長様ではないのでしょうか」
・
・
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「はいそうですよ。シャチョーさんですよ」
そう言いたいのは山々だが、うちの社長様は飛び込み営業が大嫌いなんです。
うっかり取り次いだりしたら一日中嫌味を言われてしまいます。
なのでこれまた定番の「いえ、違いますよ」というお断りをしようとしたら、後ろの社長席から声がした。
「いいの角野さん。奥に入ってもらって!」
……なぜだ。社長の知り合いだったのか?
それなら訪問者リストに書いといてくれ。
少しだけ、なんでだと固まっていたが、営業くんが私の顔を見ていることに気づいた。しかもよく見れば彼も驚いた顔をしている。
なんなんだ一体。
でもまぁ社長が良いと言ってるんだし、と思い直した私は
社長には「分かりました社長」
営業くんには「ではこちらにどうぞ」
それぞれに声を掛け、事務所の奥にある応接室へと彼を案内したのだった。
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