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敷地の中央に聳え立つのは《兄弟学園》。中等部と高等部に分かれた学業施設に、寮が備わる最高峰の学術機関。広大な敷地と自然が四方に続き、どこまで行けば外になるのか知る者はいないという。
外から来たはずの者でさえ例外はない。なにせ四方に広がる森は活き、止まる事を知らないからだ。と言うのも、この学園社会そのものが歪な造りの所為である。
本来、陰陽とは《五行》という五つの気を持って理を成す。〈木・火・土・金・水〉による、生み出す力の相生と、打ち消す力の相剋。しかし学園――土の気を中央に設置してあるこの土地は、五行特有の〈外円〉と〈内星〉を無視し、《卍》状態にある。それの何が悪いというわけでもないが、おかげで自然は止まる事も知らずに延々と敷地を広げ続けている。
これが理事長の狙いであったが、当初の政府は陰陽の理など知る由もなく、結果、兄弟学園は史上最高の独裁隔離区画を手に入れた。そして今も広がり続けるその場所に、もはや手出しの出来る者はいない。
そんな中で行う《五行》の実習は、好機と危険を伴っていた。
「ねえねえ、北条くん。私達と一緒に組まない?」
実習に向かう直前、教室を出る手前で二人の女子生徒に声を掛けられたものの、見下ろすと一瞬ビクリと怯えられる。高い位置から視線だけを飛ばすせいだが、秀介に悪気はない。
「…………」
珍しく話しかけてくる生徒がいれば、マスクを取らなければ会話ができない。いつも顎までずらして返事をするのだが、そもそも彼はヘビに指摘される事が多いように、会話が得意ではない。ヘビと会話に興じても、内容を呑み込むと最後には頷いて終わる。
此度も例外ではなかった。
「俺がアンタ達と組む意味が分からない、と言うか、班は力量と五行で決まるんだから、特に口出す必要もないだろ?」
「そうだけど、一応、希望は聞いてもらえるでしょ?」
めげずに一人は返事をするものの、もう一人は首を上下に振るだけだった。
組む、組まないが実習の班編成についてだと言う事は状況を見れば分かる。しかし食い下がられる理由に関しては、息を吐き出す他なかった。
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