123人が本棚に入れています
本棚に追加
紹彩志は瞑目した。
領議は弁論を続けたが、苦し紛れの言葉は既に紹彩志の心にも響かなかった。
かくして、領議は罷免。領議の部下、四名が流罪。
贈賄罪で身柄を拘束された商人は六十八名にものぼる。
数日を経て、上では閣僚交代の議論がなされたようだが、未だ領議の席は空席のまま。
刑部の大長官も決まらず、形式上では長官である紹彩志を刑部の首領と認めることになったのだが、左議はその後の領議の甥の審判権さえ紹彩志から奪った。領議派の官吏を根絶やしにするためであろう。
さすれば、いずれ紹彩志にも白羽の矢が立つやも知れぬ。
紹彩志は深く息を吸った。
「紹様。悩みごとですか?」
ふと顔をあげると、銚子を手にした綾が見つめていた。
「いや……。何故、そう思う」
「以前、私がお誘いしてもこちらには来てくださらなかったのに、突然お見えになったのですもの。しかも、私に会いにいらっしゃった顔ではありませんわ」
最初のコメントを投稿しよう!