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「夜風が心地よいですわ。紹様もこちらにどうぞ」
綾の薄い着物が風になびいた。
誘われて寝台の奥の窓まで行くと、火照った体は次第に冷めていったが、寝台の存在が気になって仕方なかった。
これまで気にしたことは無かったが、綾は娼妓なのだ。
己の知らぬうちに己の知らぬ客をここに迎え、己の知らぬ姿を見せている。
「そなたは娼妓という仕事が嫌ではないのか」
口にした後で、失言であったと気付いた。
「否。侮蔑したのではない。女将や家長に告げるつもりもない。ただ、本心を訊いてみたくなってな……」
綾はさりげなく頷くと口を開いた。
「娼妓に限らず、誰しも同じではありませんか。嫌なときもあれば、それに堪えたことで成長することもございます。私はようやく一番娼妓になりましたが、一番娼妓になると全て手に入ると思っていたものは未だに手中にありませんわ」
「それは?」
「娼妓らを統べる力であるとか私への評価……。巧く言えませんが、私自身には不釣り合いな位置に無理やり居るような……」
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