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「皆さん、第七区で“穴”が出現しました。
危険ですので、直ちに地下シェルターに避難してください。
繰り返します。皆さん、第七区で”穴”が出現しました―――。」
街中に取り付けられたマイクから、無機質な声のアナウンスが流れる。
誰もが悲鳴をあげ、巨大デパートの地下シェルターに逃げ込もうとする。
母親に手を引かれながら少年は、恐怖におびえる人たちを見ていた。
「地下シェルターに人がもう入りません!!」
涙目の女性が叫ぶ。怒号や悲鳴が飛び交う。直後、破壊音。
天井が崩れ、空が見えた。静寂。誰もが声を出せない。
少年たちを見下ろすようにして、穴の周りにいたのは、悪魔。
次々と降りてきて、人々を切り裂いてゆく。
地獄と化したそこは、すぐに血の海となった。
少年の母親も、大鎌を振り上げた死神のような悪魔の手によって殺された。
赤い花が散る。血が頬にかかり、服が赤く染まる。
「おかあ、さん……?う、うわああああああっ!!」
見事に上半身と下半身が離れた体を見て、叫ぶ。
さらに死神が鎌を振り上げたのを見て、少年は走り出す。
靴が脱げたが気にせず―いや、気づかなかっただけかもしれないが―そのまま走った。
数百メートル走ったところで、息が切れる。足がもつれてきた。
すぐ後ろに殺気を感じた。殺される、と思い目を閉じた瞬間、体が重くなる。
意識が遠のくとき、もう会えない母の声が聞こえた気がした。
雨が降っている。血を洗い流してゆく。
暗い街の中で、少年が立っていた。髪から雨粒が落ちる。
少年の右眼は、血のように紅く染まっていた。
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