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新郎新婦は聖壇に登ると、牧師の前に並んだ。
パイプオルガンを伴奏に、聖歌隊が讃美歌を歌い始めた。
その曲は、“いつくしみ深き”。
共鳴する奏と澄んだ声音が私の身体に染み込んだ。
自然と涙が溢れた。
分かってる。
この涙は音楽のせいだけじゃない。
高橋が好きだった。
出会った瞬間からずっと彼ばかりを目で追ってきた。
うつむいた私の視線の先に、突然白いハンカチが現れた。
少し顔を上げれば、私とシンメトリーの席、バージンロードを挟んだ向こうの席から伸ばされた腕。
私にハンカチを差し出す男性は、バージンロードを一歩踏んでいた。
早く席に戻ってもらおうと、軽く頭を下げてハンカチを受け取った。
賛美歌が終わると牧師は語り始めた。
新郎新婦が壇上の聖書に手を重ねようとした時だった。
さっき私にハンカチを渡した男が、
「異議あり!」
そう叫んで列席からはみ出した。
一瞬静まり返った教会内は、すぐにざわつきを見せた。
たじろぎもせず男は、聖壇の花嫁に駆け寄るとその手首を掴んだ。
まるで映画のワンシーンだった。
新婦はウェディングドレスの裾を持ち上げた。
片手を引かれバージンロードを走り出した。
私の脇を通り過ぎる時、彼女と目が合った。
それは一瞬の出来事だった。
手にした生花のブーケを…私に押し付けた。
「なんで…」
振り返って見れば、男によって押し開かれた扉の向こう、眩しい逆光の中へ二人は姿を消した。
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