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親戚の子を預かる事になったのだが、どうにも俺には荷が重くてな。お前さえ良かったら少し面倒を見てくれないか。
今時珍しい個人経営の古本屋に足を運んだ時の事だった。この町に越してきてすぐ、たまたま目に付いた店に入ってみたら、探していた本があった事から気に入ってしまい、すっかり馴染み客になった男、田辺に向かって店主の高坂がそう話し掛けて来る。
狭い店内には二人しか居らず、物が雑然と置かれたレジの前に座っている高坂から、2メートルも離れていないところに田辺は立っていた。
「子供?」
「あぁ。歳は幾つだったかな。小学校に上がったという年賀状が届いていたような……いやそれは去年だったか。それとも一昨年だったか……ええと」
あの子は何歳だろう。ブツブツと顎に手をやり呟く男に、田辺は深く溜息を吐く。歳は30を過ぎたばかりの田辺より少し上くらいだというのに、どうにもこの男は老人のようなボケっぷりを度々披露する。
「兎に角まだ小学生だったはずだ。元気でとても良い子なんだがほら、俺は腰が悪いだろう。だから満足に遊んでやれないんだ」
レジに隠れて見えないが、高坂は腰の辺りを摩っているようだ。
「つい最近治ったと言ってなかったか?」
「あの時は右だった。今度は左だ」
本の整理をしている時にやってしまった。そうして指差す場所を見れば、木の古ぼけた低い椅子の上に大きくて分厚い本が山積みになっている。あれを持ち上げようとしたのだという。どうせ、怠惰で一気に持ち上げたのだろうな。安易に想像できた。
「あいたたた……そういうわけで田辺、あの子がいる間の世話を頼む」
棒読みで痛がってみせ、有無を言わさぬ勢いでそう決定した高坂に、田辺はまた一つ溜息を吐いた。
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