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年号がギリギリ昭和な頃に造られたアパートは、田辺の大きな体には窮屈で仕方ない。上る度にギィギィと鳴る外階段は老朽化が進み、田辺が真ん中を踏み込むとその分だけ歪む。いつか壊れてしまうのではないかと端を歩いたりするのだが、時折忘れてそこを踏んではおっかなくなる。
二階の角部屋が田辺の部屋だ。辿り着き、解錠する。扉に刺さったピザ屋のチラシを引き抜き、頼みもしないのに内容を見ながら短い廊下を進んで一部屋しかないそこに辿り着く。6畳の和室。それが田辺の今の城。190㎝ある田辺には狭すぎるが、特に家に拘りがない彼にはこれで充分だった。
布団と卓袱台、小さなテレビとチェストがあるだけの部屋を見回し、田辺は後頭部を掻く。
「ついでだから預かれと言われたがなぁ……さすがにここではその子も不満に思うんじゃないか」
高坂は田辺の話を聞かずに話を勝手に進め、気付いた時には田辺の家で暮らすことになっていた。子供は明日にはこの町に来ると言う。話が早すぎて無理と言うタイミングを失ったが、やはりこの空間に二人は厳しい。
「どうにか高坂の家に戻せないものか……」
思案して、無理だと諦める。高坂は女性のような中性的な見た目に、おっとりした喋り方をしているせいで騙されがちだが、頑固だし厄介ごとは受け入れようとしない。どういう経緯か知らないが、子供を預かるとなった時も誰かに押し付けようと最初から思っていたに違いない。そこに運悪く来店したのが自分。行かなければよかったと田辺は今更後悔する。
「はぁ……仕方ない。少しでも広くなるように綺麗にするか」
そうして畳に置かれた服やゴミを拾い始めた。
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