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ぱち、ぱち、という柔らかい音が微睡みを擽る。
「ん……」
睡眠の足りない頭を覚醒させるため、おれ――藍白蛍(あいじろ ほたる)はゆっくりと体を起こした。
手を着いた先はざらついた地面で、細かな小石が手のひらに食い込んで少し痛い。
時折吹く風が緩やかな温風となり乾いた土の香りを運ぶ。
焚き火がゆらりと揺れ、でこぼとした壁に陰影を踊らせた。
男子高校生の平均くらいの背丈である俺でさえ真っ直ぐは立てないほど狭い洞窟は、縦はともかく横には広い。
そして、一度迷い込めば二度ど出てこれないのではないかというくらいに複雑な構造をしているのだろう。
目視出来るのはたった数メートル先までで、地下へと続くぽっかりと空いた口の中は暗闇に塗り潰されている。
入口を見れば、丁度夜が明ける頃なのだろう。
深い紺色の空を背景に木々の影が見える。
「あー」
近くに置いておいた荷物袋を引き寄せ、体の下に敷いていた薄布を畳んで乱暴に突っ込む。
「地球に帰りたい」
焚き火に土をかけて消し、おれは暗い声で呟いた。
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