言えないから、さよなら

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 1月27日、午後6時52分。悲鳴のような甲高い金属音に、駅前を歩いていた人々は誰もが空を見上げた。星などない都心の夜空。けれど、そこにはきらきらと満天の星空が煌めいていた。その美しさにどこからともなく歓声があがる。夜空に煌めく光は、はらりはらりと人々の上へ降り注ぐ。幻想的な光景に皆が見いっていた。そっと手を差し出せば、手のひらに光の粒があふれる。  いったい何がおこったのか、誰にもわからない。皆、ただただその光景を見つめることしかできなかった。  それが新しい映像システムの事故だとニュースで報じられたのは翌朝のことだった。機械内部の温度が急上昇し、表面に亀裂が発生。亀裂は時間をかけて少しずつ広がり、そしてついに耐えきれなくなって爆発したのだという。ただ、この事故で死傷者が出なかったため、もっぱら注目されたのはその幻想的な光景の方だった。星降る夜と題され、携帯で撮影された動画が繰り返しテレビで流された。  だが、そのシステムの開発会社は騒然となっていた。とにかくその光を浴びてしまった人を全員探し出さなければならない。  朝のニュースとは一変し、夕方のニュースでは緊迫した状況がトップニュースで流れた。その光を浴びた者は、数週間後には体が消えてしまうのだという。物理的にではなく、視覚的に見えなくなってしまう。透明人間になる光として、連日専門家がテレビでその仕組みを解説するようになった。  光を浴びてしまった人は全部で281人。どれくらいで姿が見えなくなるのか、見えなくなってしまったあとはどうするのか。開発会社だけでは到底対処しきれず、国も対策に追われた。  …………そして、その事故から二週間後。久しぶりに恋人の美鈴(みすず)に会った雅哉(まさや)は、ファミレスで食事をとっていた。食事も終わり、デザートを頼みたいとメニュー表を見ていた美鈴は、そうそう、と視線をメニュー表へむけたまま突然言った。 「なんかね、私、もうすぐ見えなくなっちゃうみたい」 「…………は?」  デザートを頼みたいと言ったのと全く同じテンションで言った美鈴の言葉を、雅哉はすぐには理解できなかった。
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