言えないから、さよなら

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「いいじゃん、別に。って、あれ?美鈴ちゃんコーヒーじゃないの?」  いつも美鈴はコーヒーなので不思議に思った雅だったが、湯呑を受け取った美鈴は困った顔を浮かべた。 「ちょっと、胃の調子が悪くて」 「そうなの!?大丈夫!?」 「あっ、大丈夫です。ほんと、少しだけなので」 「本当?もう、ごめんね、雅哉のせいで」 「なんで俺のせいなんだよ」  美鈴の隣に座った雅哉が文句を言うと、雅が鋭くにらみつけた。 「あんたがしっかりしないからでしょうが」 「はぁ!?なんだよ、それ」 「だいたい、私がここへ来るたびに文句を言うなら、あんたがさっさと実家を出ればいいだけの話でしょ」 「違うだろ。お前がきすぎなんだって」 「普通よ、普通。雅哉、わかってる?女にとっての二十代がどんなに大事かって。無駄に美鈴ちゃんを待たせるんじゃないわよ。決めるところはびしっと決めなさいよ」 「お前に言われたくないわ!」  またいつもの口論が始まったと美鈴が苦笑していると、焼き菓子が入った籠を持ってきた雅哉の弟の雅人があきれた様子で言う。 「ごめんね、美鈴さん。こんな二人で」  中学生とは思えない雅人の落ち着いた口調に、雅哉がくってかかる。 「こんな二人ってなんだよ!一緒にするな!」 「そうよ!私は悪くないわよ!」  そして、再び口論は続く。あきれ顔の雅人と、苦笑する美鈴。そんな美鈴の足になにかが触れたので見下ろすと、いつの間にか美鈴の近くまでやってきていた直春が美鈴の足につかまっていた。つぶらな瞳、柔らかそうなほっぺた。美鈴がそっと手を差し出すと、直春は小さな手で美鈴の指をぎゅっと握りしめた。  その姿に、美鈴は胸が締め付けられ泣き出しそうになった。
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